遠い親戚からの紹介で出会い、1年ほど付き合って結婚したコウイチさん(42歳)。結婚して5年になるが、5歳年下の妻はいつでも穏やかで、あまりおしゃべりなほうではない。
「自分の意見をはっきり言わないんですよ。結婚してすぐ、中古ながらマンションを購入したんですが、そのときもキッチンをリフォームしようと思って意見を聞いたんです。でも『あなたのいいように』としか言わない。
彼女はそれまで勤めていた会社をやめて、しばらくは主婦として家庭の基礎を築きたいと言っていたから、だったらキッチンは主に彼女が使うだろう、動きやすいようにリフォームしようよと言っても、そんな返事。
がっかりしましたね、これでやっていけるのかなと思ったのを覚えています。生活を始めてもそんな感じでした。自分の意見を通そうとはしない。何でも譲る。僕のいいように、と。
手応えのない生活だったけど、特に摩擦があるわけではない。その後、生まれた子どもを中心に生活するようになり、妻がストレス源にならない生活も悪くないと思うようになりました」
さまざまなことへの決定権が自分にあるのも考えてみれば悪くはない。妻が主導権を握りたがるタイプではなくて、かえってよかったのかもしれないと思っていた。それどころか、妻は自分に花を持たせてくれる、今どき珍しいタイプなのではないかとも考えた。
だったら妻をもっと大事にしなければとコウイチさんは、ときおり妻の好きな和菓子を買って帰ったりもした。
ところが実家で妻が豹変!
だが数カ月前、妻の実家で突然、妻が彼に反旗を翻した。
「義母が3歳になる息子のことで、ちょっと妻に注意をしたんですよ。
『今のうちに、いいことと悪いことを教えておかないと』って。確かに妻は躾が甘かったから、息子ははしゃぎ出すと止まらなくなってしまう。
そうですよねと義母に思わず言ったら、妻が『この人がまったく育児をしないから困るの。生活費を出して何もかも命令しておけば、実際に私が何でもやると思ってるのよ。もう嫌、こんな生活』と号泣したんです。
義母は驚いているし、僕もどうして今さらこんな非難をされるのかわからなくて……」
義母は「泣かないで。ちゃんと話し合いなさい。わかりあえるから」と自身の娘の背中を叩いた。妻は泣き止まず、そのうちに息子まで泣き出した。
「僕がそれほど妻を追いつめていたのか、だったら言ってくれればいいのにと思いながら、何もこんな場面で言わなくてもいいじゃないかとも考えていました。じっと我慢していたんでしょうか、怖い女性だなあとつくづく思いました」
自宅に戻って「言いたいことがあったら言ってよ。ちゃんと話そう」と声をかけると、妻は「子どもを寝かせてくる」と行ってしまい、結局、その晩は話せなかった。そのままずるずると日常は続き、肝心なことは何も話し合っていないままだ。
「ただ、実家で見せたあのやるせないような訴えが、妻の本音なんだろうとは思っています。僕なりに感謝しているつもりだったけど、妻はもっと育児に関わってほしかったんでしょうね。
あれ以来、なるべく子どもとの時間を増やしていますが、妻がそれをよしとしているのかどうかは今ひとつわからない。いっそ僕の前でもきちんと本音を見せてほしいと思っています」
相手が何を考えているのかは、たとえ夫婦でもわからないものだ。言葉を尽くして初めて、夫婦の礎は築かれるのかもしれない。
2024.4.22